|
NPO法人アンチエイジングネットワーク理事長が、『アンチエイジングな日々』を
軽快な筆致でつづります。 どうぞお気軽にコメントをお寄せください。 |
湖水地方の案内役のキースは結構な変り者だった。
“今日の旅程をご説明しましょう”と言って、ロビーの椅子に座り込んだ。 “タバコを吸ってもよろしいか?”と聞く。 “もちろん“と僕は答える。 今ほど嫌煙権がのさばっていないころの話だ。 と、やおらクラッチバッグから小さな紙片を取り出した。地図ではない。薄い白い紙である。 次に出てきたのは、タバコの葉だ。紙の上に敷き詰め、くるくると巻いて一本の煙草が出来上がった。 マッチで火をつけ、うまそうに吸い始める。 戦後タバコが払底した時、好きな人はキセル用の煙草の葉を紙で巻いて、自前の煙草を作ったものである。辞書に使われるあの薄い白い紙、インディアン・ペーパーが最適ということで狙われ、何冊の辞書が灰となったことか。 案内中も勝手に写真は撮らせてくれない。 自分の好みのところに来ると車を止め、ここからこの角度でと撮影のご指南がある。 湖水地方で生まれ育った男だ。湖はもちろん、山や川、街並み、草花の一本一本まで知り尽くしている。 被写体は彼に任せることにした。 昼になると“腹の具合は”という。 “そろそろ” “○○を試してみたいか?庶民の食いものだが” その○○の名前が思い出せないが、土地の言葉で「昼の軽食」を意味するらしい。 “勿論“と言うと道端の馬小屋のようなところに車を止めた。 なかは薄暗く、カウンターとテーブルが一、二卓。ミレーかゴッホでも描きそうな農民風の男が2,3人ビールを飲みながら。何やら食べている。 出てきたのは、インドのスラム街の道路わきから拾ってきたような、カレー風味の食いものだった。うまくないこともない。 こうして湖水地方を一巡して一日が終わるころは、われわれはすっかり仲良しになってしまった。僕も多少変わっているのかもしれない。 別れ際に彼は、ポケットから一枚の写真を出して見せながら叫んだ。 “いい女だろう、もうすぐ結婚する予定だ。ああ、俺はなんと果報者だろう。” その女性は何ともユニークないでたちをしていた、メーキャップも含め。ふむ、これがキース好みか。 その後本社の方が訪日されるたびに、キースからよろしくとのメッセージが伝えられた。 ある時“彼の結婚はどうなった?”と聞くと、“それがそのう、彼もちょっと個性が豊かでしょ…”と不得要領な返事が返ってきたままで終わっている。
by n_shioya
| 2009-09-04 22:58
| コーヒーブレーク
|
Comments(3)
|
塩谷信幸
1931年生まれ
東京大学医学部卒業 北里大学名誉教授 北里研究所病院形成外科・美容外科客員部長 AACクリニック銀座 名誉院長 NPO法人アンチエイジングネットワーク理事長 見た目のアンチエイジング研究会代表世話人 東京米軍病院でのインターン修了後、1956年フルブライト留学生としてアメリカに渡り、オルバニー大学で外科を学ぶうちに形成外科に魅了される。数年の修業の後、外科および形成外科の専門医の資格を取得。 1964年に帰国後、東京大学形成外科勤務を経て、1968年より横浜市立大学形成外科講師。1973年より北里大学形成外科教授。 1996年に定年退職後も、国際形成外科学会副理事長、日本美容外科学会理事として、形成外科、美容外科の発展に尽力している。 現在は、北里研究所病院美容医学センター、AACクリニック銀座において診療・研究に従事している。 >>アンチエイジングネットワーク >>NPO法人創傷治癒センター >>医療崩壊 >> 過去のブログはこちら(2005年5月26日~2006年5月26日)
以前の記事
検索
カテゴリ
全体 アンチエイジング スキンケア 医療崩壊 キズのケア QOL 老年病 介護 手術 全身療法 食生活 サプリメント エクササイズ エステティック ヘアケア 美について コーヒーブレーク 医療全般 原発事故 睡眠 美容外科 再生医療 再生医療 未分類 最新のコメント
フォロー中のブログ
ICELANDia アイ... 九十代万歳! (旧 八... ・・・いいんじゃない? 京都発、ヘッドハンターの日記 美容外科医のモノローグ ArtArtArt 芙蓉のひとりごと 真を求めて 皆様とともに... ファン
記事ランキング
ブログジャンル
画像一覧
|
|
ファン申請 |
||