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NPO法人アンチエイジングネットワーク理事長が、『アンチエイジングな日々』を
軽快な筆致でつづります。 どうぞお気軽にコメントをお寄せください。
ちびた鉛筆
僕の母親は「奈良の女高師」出の誇り高き女性だった。
「お茶の水」もプライドでは負けない存在だが、「奈良」は八世紀の古都としてそこに学んだ者に、新参者の首都には比べものにならぬ根強い誇りを与えたようである。

その勝気な母にとって、競争心の全く欠如した息子は、まことにふがいない存在であったろう。
彼女のしつけは厳しかった。
“一番でなければビリと変わりない”
ならビリでもいいじゃないか、と手を抜くと、敵はからめ手から攻めてくる。
“駄目だと思って始めから投げちゃいけない。全力を尽くせ。そうすればたとえ結果が悪くても,やれるだけやったと諦めがつく。
そうでないと、やれば本当は出来たなどと、卑怯な逃げ口上を吐くようになる。”
ごもっともだがこれでは逃げ場がない。

そのような厳しい躾の中で、一つだけ素直に受け入れたものがある。
あるとき、ちびた鉛筆を捨てようとした。
“まだ、使えます!”と雷が落ちた。
まだ、日本があの狂気の侵略戦争を始める前で、物資が不足していたわけではなかった。
其の2センチほどの鉛筆の片方に、母は紙を巻いて指で挟めるようにして、自分で字を書いて見せた。
そして僕はその鉛筆を芯のほとんど最後まで使い切った。
物を大事にすることは、自分の心を大事にすることになると悟ったのはそれからしばらく経ってからである。

その、「物を大切にする心」を失ったのは、アメリカでの効率一辺倒の「使い捨ての文化」の影響もあったことは前に記した。そして紙をホッチキスで止めても、紙の痛みを感じなくなった事も。

このところ「咀嚼30回」を始め、これまでやらずぶったくりと軽蔑してきた「懐石料理」にも、深い味わいがあることを知ったということも最近書いたとおりである。
また、食物を反芻することが、過去を想起し反芻するゆとりに繋がることにも気付いた。

そして今、時折鉛筆を使うたびに、母の厳しかった教えの数々が新しい衣をまとって、鮮やかによみがえってくる。
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by n_shioya | 2010-04-12 21:16 | コーヒーブレーク | Comments(4)
Commented by ミカロ at 2010-04-12 21:33 x
素敵なお母様のお話ですね。
私はよく父から「鶏口となる牛後となる勿れ」言われてきました。
ダメな娘を励ますためにちょいちょい使ったと思うのですが(苦笑)。
皮肉にもその教えがすっかり身についてしまったようです。
Commented by 船長 at 2010-04-13 09:33 x
いくつになっても「そうか…そういうことであったか」と発見できるのは素敵です
慣れとは恐ろしいもので、アメリカ生活の最初に招かれた子供の誕生会では、
残ったピザからケーキ、飲み物に至るまでテーブルクロスごと包んでごみ箱に放り込むのを見てギョッとなりましたが、
いつの間にやら子供はそれが当たり前のようになり…
大量生産大量消費大量廃棄が善と思わされる大型店と
使ったものでも躊躇なく返品する客…
最後まで慣れなかったのはクリスマスシーズンに買い物するとギフトレシート
なるものが付いてきてもらった側が店に行って好きに返品交換できるシステムでした
クリスマス直後の返品コーナーの長蛇の列は忘れられません
ひょっとすると先生がいらした頃のはアメリカより更に
「物を大切にする心」どころか「心」そのものが失われているかもと思います
自由と個性が効率化を飼い馴らすのは難しいのでしょうかね
実力主義の良い面も懐の深さも感じただけにギャップが不快だったのかもしれません

Commented by n_shioya at 2010-04-13 22:01
ミカロ さん:
亡くして初めて分かる親のありがたみですよ。
Commented by n_shioya at 2010-04-13 22:02
船長さん:
そうは言ってもアメリカの魅力は捨てがたいものがあります。


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