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NPO法人アンチエイジングネットワーク理事長が、『アンチエイジングな日々』を
軽快な筆致でつづります。 どうぞお気軽にコメントをお寄せください。 |
トルストイと言えば「戦争と平和」。
だが、あの大作を読み終えた人はどのくらいいるだろうか。 昔、米川正夫が翻訳を出し始めた頃、僕は次の巻が待ち遠しく、読みふけったものである。 ロシヤの宮廷と平原に繰り広げられる壮大な叙事詩。トルストイの歴史観。 作品のディテールは覚えていないが、夢中で引きずり込まれた興奮だけは懐かしく思い出す。 また、彼の思想が日本でももてはやされ、とりわけ白樺派の人たちに多大な影響を与え、徳富蘇峰が訪ねたということも聞かされていた。 そしてまた、彼の妻ソフィーは、モーツァルトのコンスタンチン、ソクラテスのクサンチッペと並んで、三代悪妻と呼ばれていたことも。 そして最後は悪妻から逃れるために家出して、田舎の鉄道駅で病死したことも。 ちなみに僕が偉くなれなかったのは、お前が悪妻でなかった為だ、と配偶者に責任を転嫁することにしているがそれは余談である。 だが、映画「終着駅」は、トルストイを含め関係者の日記に基づいて、新しいトルストイ像、そしてソフィア像を見事に描き出す。 一言でいえば、トルストイも人の子。理想と現実のはざまで揺れ動く矛盾だらけの男である。 彼の思想が独り歩きし、共鳴する者たちの集まりが肥大化し、当人の手に負えない運動にまで発展する。 自縄自縛となった彼は、著作権を放棄してその運動に捧げる。 だが、ソフィーはまっとうな主婦である。家族の幸せを守るため、夫を政治的に利用しようとする取り巻きと闘う。 その葛藤に疲れ切ったトルストイはついに家から逃げ出して、客死する。 辿りついた田舎の終着駅は彼の人生の終着駅でもあった。 映画を見ながら僕は不遜にも、亡くなった両親を思い出した。 そのスケールと社会的なインパクトは比べ物にならないが、本質的には同じ不幸な晩年をたどったからである。 84歳で世田谷のクリニックをたたみ、熱海に引退してから、父は健康法に凝り、やがてそれを世に広めることを使命と信じ、90歳近くになってから、続々と著書を出版し、日本中を講演して回る。 一度僕もマリオンの講演会に出席したが、信奉者で満杯になり、立ち見も出る盛況だった。彼らが一斉に、親父の呼吸法を実行する様は異様でもあった。 母はそれが不満だった。夫が外出がちになっただけでなく、信者が家まで押し寄せるからである。 “年をとったら、お父さんと昔の話を懐かしく語り合って、静かに暮すつもりだったのに・・・”と言い続けた。 そして亀裂は深くなり、ついに食事も一緒にはしなくなった。 やがて、家庭内別居の後、施設に入っても離れて暮し、晩年は言葉も交わさぬまま、別々に天に召されていった。 今お二人はどうされていることか。 彼岸が“恩讐の彼方“であることをひたすら祈るだけである。
by n_shioya
| 2010-12-11 17:51
| コーヒーブレーク
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Comments(6)
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山路
at 2010-12-13 02:20
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塩谷先生へ。
映画というのは、自分の人生を、投影しながら見るのも、 楽しみの、一つですね。
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at 2010-12-13 02:33
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ブログの持ち主だけに見える非公開コメントです。
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silku928 at 2010-12-13 14:53
いつも心に響く、深いお話有難うございます。
今回も、唸りました。 此岸は悩み、迷い、誠に多いですね。 お父様とお母様、彼岸で、 存分に楽しい思い出話に花を咲かせていらっしゃることでしょう。 先生、寒くなってまいりました。どうぞご自愛くださいませ。
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n_shioya at 2010-12-13 23:06
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n_shioya at 2010-12-13 23:08
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正心調息法
at 2010-12-14 16:48
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>家庭内別居の後、施設に入っても離れて暮し、
>晩年は言葉も交わさぬまま、別々に天に召されていった。 でも、又聞きでしかありませんが、 廊下等ですれ違う時にはハイタッチを交わしていた、 なんて話も伝わってきました。 「恩讐」はもう越えられていることでしょう。
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塩谷信幸
1931年生まれ
東京大学医学部卒業 北里大学名誉教授 北里研究所病院形成外科・美容外科客員部長 AACクリニック銀座 名誉院長 NPO法人アンチエイジングネットワーク理事長 見た目のアンチエイジング研究会代表世話人 東京米軍病院でのインターン修了後、1956年フルブライト留学生としてアメリカに渡り、オルバニー大学で外科を学ぶうちに形成外科に魅了される。数年の修業の後、外科および形成外科の専門医の資格を取得。 1964年に帰国後、東京大学形成外科勤務を経て、1968年より横浜市立大学形成外科講師。1973年より北里大学形成外科教授。 1996年に定年退職後も、国際形成外科学会副理事長、日本美容外科学会理事として、形成外科、美容外科の発展に尽力している。 現在は、北里研究所病院美容医学センター、AACクリニック銀座において診療・研究に従事している。 >>アンチエイジングネットワーク >>NPO法人創傷治癒センター >>医療崩壊 >> 過去のブログはこちら(2005年5月26日~2006年5月26日)
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