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NPO法人アンチエイジングネットワーク理事長が、『アンチエイジングな日々』を
軽快な筆致でつづります。 どうぞお気軽にコメントをお寄せください。
友の死
紫のはずだった布表紙はすっかり色あせて、「矢部貞美君追悼文集」と書かれていたはずの背表紙の文字も消えてしまった。
あれからもう64年。
文集にしばしば親友と名が挙げられている僕だが、其の追悼文は見当たらない。
当時、僕は何も書けなかった。いや書く気になれなかったというのが本当だろう。
是非、と懇願されても一文字もかけぬまま、文集は発行された。
友の死_b0084241_22262474.jpg

都立一中(今の日比谷高校)の4年を共にすごし、旧制一高に共に入って、これからやっと“真理の探究”に入るところだった。
だが一月もたたずに、彼は海に身を投じ、一月して二の宮の海岸に打ち上げられた。
生前彼が愛したリストのハンガリア・ラプソディーの2番を、針音のざわつくSPで流し家族と友人でお通夜をした。

藤村操に始まり、“20歳のエチュード”の原口統三と、一高には自殺の伝統があった。発見されるまでの一月間、必死で捜索する我々に、「あ、それは自殺ですよ}とこともなげに言われたのは、「ビルマの竪琴」の著者竹山道夫教授だった。
当時僕もスランプに悩んでいた。だが、自らを終わらせる発想には無縁であった。
遺書もなく、なぜ彼が・・・と僕は悩み続けた。

だがその後、自らも「死の谷」をさ迷って、人は強力な「生のベクトル」で生かされているが、ときには反対の「死のベクトル」に誘われることもあるのを知った。
だが、16歳の若者を襲う「死のベクトル」が何物か、まだ僕には理解できない。
森有三は、原口の死を「哲学的な死」と呼んではいるが・・・

姿を消す直前、矢部は玄関先に咲き乱れる赤白のつつじを目にして
“あくまで生そのものであろうとするつつじ“
に対しこう問いかけている。
“ともすれば容易く求められるがごとく我が眼前にあらはれる心理よ 汝は何故に常に余をあざむくか しからばつつじよ 汝もまた余をあざむきしか 救うが如くして余をあざむきし汝はそも何者なるや?” (「身辺雑記」より。)
by n_shioya | 2011-12-31 22:27 | コーヒーブレーク | Comments(6)
Commented by icelandia at 2011-12-31 23:41
 もしもお気持ちがあるのであれば、今から書いても遅くはないのかもしれませんね。それが自己満足に終わろうと。
 どうぞよき新年をお迎えください。そして2012年の更なるご活躍を期待しています!
Commented by 恵子 at 2012-01-01 07:51 x
賢い人って、帝大生が華厳の滝に飛び込んだみたいに、
別の世界が見えるんですかね。

お父様が好きなんで
こういうのは憑依によると思ってます。

この方も若いままですね。
私の30位で亡くなったおじいちゃんみたいに。
Commented by HOPE at 2012-01-01 17:12 x
あけましておめでとうございます
新年を迎えてやはり生かされていることに感謝しています
この方の年齢のころから今に至るまで、段々とどんどんと世の中の変化に
慣れてしまい、すっかり忘れてしまった感覚があるのかもしれません
もちろん私もこの方のような心の深さがもともとあるわけではないのですが…
今の子供たちを見ていると、あまりに刺激が多すぎて
心理的に深く考える素養があったとしても、
外からの刺激や物理的なことに蓋をされてしまうのかなと思ったりします
大人になって理解できないほどの死へのベクトルに向く人たちが
今とても多いのは別の意味で「深い」闇だとは思いますが…
自らの命を断つことは、いずれにしても残された沢山の心を
癒すことはないですよね
「あの人にとってはよかったのだ」とはどうしても思えないですし…
Commented by n_shioya at 2012-01-03 22:50
icelandiaさん:
いずれ、僕なりのインメモリアムを書くことになるでしょう。
Commented by n_shioya at 2012-01-03 22:52
HOPE さん:
この年になってやっと、人の心の深淵を垣間見ることが出来るようになったと思います。
Commented by n_shioya at 2012-01-04 00:06
恵子さん:
思春期に体の発育のアンバランスがあるように、精神面でもバランスを崩すのでは、と考えたこともありますが・・・


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