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NPO法人アンチエイジングネットワーク理事長が、『アンチエイジングな日々』を
軽快な筆致でつづります。 どうぞお気軽にコメントをお寄せください。 |
“それは「或る一つの感じ」”
“何故山に登るか?”との問い掛けに,明治のアルピニスト辻村伊助はこう答えた. 「或る一つの感じ」を求めて,彼はヨーロッパの山々を遍歴した. その記録,「アルプス日記」は山岳文学の傑作で,いまだに私の愛読書の一つである. ある時,山の頂きに立って雄大な景色を見渡し,アルプスの霊気を胸一杯に吸い,ふと足下に目をやるとエーデルワイスが一つ,崖ッ淵の岩にしがみついて可憐な花を咲かせている.ああ,その時の感じ.この「或る一つの感じ」としか言い様のないものの為に,俺は山に登り続けて来たのだった,と気付くくだりは真に感動的である. 人は皆,一生をそれぞれ「或る一つの感じ」を求めて彷徨い続けるのではなかろうか. それは幸せと呼ぶ程の大それたものでなく,又青い鳥などと名付けられれば,恥ずかしがって姿を消してしまうつつましやかな存在である. 人によってはそれは青空に弧を描く白球かも知れないし,又一本の弦に託す音の調べかも知れぬ.またその時々でうつろうものかも知れぬ.私の場合ある時期,それは自転車であった. 学生時代の大半を,今流行りの言葉でいえば,モラトリウム人間として過ごした私にとって,唯一の慰めはサイクリングであった. 日曜日ともなれば玉川上水沿いに自転車で上り,ある時は御岳へ,又ある時は相模湖へと足と伸ばした. そして小川の囁きに,シェリーの,キーツの,そしてワーヅワースの謳うイギリスの田園を夢見るのだった. 新緑をを浴び紅葉に染まり,そして夏も冬も.ひたすら風を切り,ペダルを踏む心地よさ,まさに地上の至福とはこの事であった. そして山の中腹の日だまりで,草むらに寝そべって空を眺め,“私ほど雲を愛する人がいたら教えて欲しい”,というヘッセの「青春彷徨」の一節を思い浮かべるのだった. その後志を得て外科医となり,スランプからは脱出する事が出来た. 大学を定年退職した後も、幸い診療に研究に,又教育に忙しそうな日々をおくっている. だが休みの日など,庭の草花を眺めていると,ふと誰だったか,あのイギリスの詩人の一節が響いてくる. “もしこうしてじっと花を見つめる時が持てなかったら,この世は何の価値があろうか?”と言う詩の一節が. そしてあの昔の不毛の時代が,「或る一つの感じ」と共に懐かしく蘇ってくるのである.
by n_shioya
| 2013-01-17 21:45
| コーヒーブレーク
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Comments(2)
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塩谷信幸
1931年生まれ
東京大学医学部卒業 北里大学名誉教授 北里研究所病院形成外科・美容外科客員部長 AACクリニック銀座 名誉院長 NPO法人アンチエイジングネットワーク理事長 見た目のアンチエイジング研究会代表世話人 東京米軍病院でのインターン修了後、1956年フルブライト留学生としてアメリカに渡り、オルバニー大学で外科を学ぶうちに形成外科に魅了される。数年の修業の後、外科および形成外科の専門医の資格を取得。 1964年に帰国後、東京大学形成外科勤務を経て、1968年より横浜市立大学形成外科講師。1973年より北里大学形成外科教授。 1996年に定年退職後も、国際形成外科学会副理事長、日本美容外科学会理事として、形成外科、美容外科の発展に尽力している。 現在は、北里研究所病院美容医学センター、AACクリニック銀座において診療・研究に従事している。 >>アンチエイジングネットワーク >>NPO法人創傷治癒センター >>医療崩壊 >> 過去のブログはこちら(2005年5月26日~2006年5月26日)
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