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NPO法人アンチエイジングネットワーク理事長が、『アンチエイジングな日々』を
軽快な筆致でつづります。 どうぞお気軽にコメントをお寄せください。
「危険なメソッド」?
“もう一杯いかが?”
アンが薦めてくれたコーヒーに僕はミルクを注いだ。
皆はとうに和歌山市内観光に出かけたのか、僕とアンは二人で遅い朝食をキチンで取っていた。

アンは和歌山大学で心理学を教えている精神分析医である。
その夏、津田塾に2週間泊り込んでのクエーカー主催の平和問題の国際学生セミナーの講師の一人だった。
参加者は各国から選抜された40名ほどの学生である。僕は東大の医学部の一年生として参加した。
アンはその講師陣の一人で最も人気があり、有志の学生10名ほどが、秋の連休を利用して和歌山のアンの家に転がり込み、リユニオンを兼ねて和歌山大学の学生との交流図ったのである。

“昨日の学園祭はどう感じられて?”
アンが聞いた。
僕は校庭での、和歌山大学の学生達の踊りを思い浮かべた。
幼稚な時間つぶしに感じられた。
曲はファリアの三角帽子だったのをなぜか今でも覚えている。
“ええ、よかったですよ。”
僕の答えはおざなりだったに違いない。

じつは僕は団体行動が苦手であり、あのような学校行事そのものを軽蔑していた。そして自分では“人嫌い”と信じ、またそれを誇りに思っておおよその他人を蔑視していた。
慧眼な精神分析医はすぐそれを感じ取ったのだろう、いや、セミナーのとき以来、このチャンスを待っていたのかもしれない。

“塩谷さん、貴方寂しくない?”
“いえ、ちっとも。”
僕は誇りを持って答えた。
“自分で認めないだけで、貴方本当は孤独なのよ。”
アンは続けた。
“塩谷さん、貴方は本当は人に好かれ、信頼される性質(たち)なのよ。セミナーでもみんなが貴方を議長に押したでしょう?
何故もっと素直に自分のよさを認めないの。“

一瞬僕はたじろいだ。そして何か僕の中で殻が崩れるのを感じた。
滂沱と涙があふれ出て、人嫌いの仮面がはずれ、心が軽くなるのが分かった。
以来僕の心の持ちようはすっかり変わった。
あの時が無ければ、僕は今どんな人間を続けていただろうとよくゾッとなることがある。
あれはやはりアンの巧まざる精神分析療法だった。

こんなことを書く気になったのは、最近フロイドと其の弟子たちの確執を描いた映画、「危険なメソッド」が上映され話題になったからである。
確かに今までの精神分析には限界もあり、危険もあったことは僕も承知している。
だが、僕個人に付いて言えば友人であるアンの家での即席の“精神分析”で救われたことは間違いない。
by n_shioya | 2013-01-23 22:05 | コーヒーブレーク | Comments(0)


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