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NPO法人アンチエイジングネットワーク理事長が、『アンチエイジングな日々』を
軽快な筆致でつづります。 どうぞお気軽にコメントをお寄せください。
ロブスターと妊娠中絶
ケープコッドはボストンの南西に、鱈の口先のように鍵形にボストンを囲むように張り出た岬である。
東部でも有数のサマーリゾートで、夏には全米から避暑客が押し寄せ、ケネディ一家の別荘もちょうど中間地点のハイアニスというところにある。
友人のベッツィの別荘はハイアニスの少し先のハーウィッチ・ポートにあり、毎夏僕たち夫婦は招かれていた。
彼女はフリーのライターで、レディス ホームジャーナルなどに寄稿している。進歩的だが、ただのハネッカエリの女権論者ではない。
僕たちにアメリカ生活の手ほどきをして、さらにアメリカ社会に溶け込ませてくれた恩人である。

“ノビ、デュボネをいかが。”ノビとはアメリカでの僕のニックネームだった。
フランスの食前酒、デュボネの味を教えてくれたのもベッツィである。ロブスターが茹で上がるまで、デュボネをちびりちびりと。
ロブスターと妊娠中絶_b0084241_20565972.jpg

“今ね、私女性の生理について書いてるの。”
“?”
“人工中絶が如何に女性の体を狂わすかということ。”

彼女によれば、女性は妊娠したときから、一連のプロセスが連鎖反応のようにスタートしてしまう。すなわちホルモンの働きで、胎児期、出産、そして授乳へと体は次々に反応していく。
これを中断することは、たとえやむをえない事情があっても、また自我に目覚めた女性が「これは私自身の選択権よ」と理性で割り切っても、体は納得せずそのしわ寄せが必ず精神にも悪影響を与えるものだ、というのが彼女の主張である。
結婚間もない僕は、頭をがんと殴られたような気がした。
そしてこれが、以来、ロブスターを口にするたびに繰り返し響いてくるテーマである。

考えてみると、これは妊娠中絶に限らない。同じような自己矛盾はわれわれはいろいろな場面で、またいろいろな形で犯しているのではないか。
「人工中絶」のような理性が本能を押さえ込むひずみと反対に、本能が理性を振り切って暴走することもある。
たとえば過食とか過度の飲酒。「失楽園」の世界にしてもその類ではなかろうか、渡辺淳一先生には申し訳ないが。
どちらにせよ、問題は理性と本能の乖離と相克。
さらには平和のために殺し合いをしなければいられない人間の業。これは自己防衛本能が平和共存を希求する理性を打ち砕く、一種の過剰反応ともいえる。
『Man against himself(自らに背く者)』という台詞をどこかで聞いたような気がする。
こう考えると、ある種の人間の行動の愚かさは、意外にもその原点は、理性と本能を包含する人間自身の生理に由来していると言えそうだ。
これを僕は、『人間の愚かさの生理学的基盤』、と名付け、『容貌のメッセージ性』に続く研究テーマとして取り組みたいと考えている。
by n_shioya | 2013-03-13 20:57 | 医療全般 | Comments(1)
Commented by learn port at 2013-11-28 16:39 x
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