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NPO法人アンチエイジングネットワーク理事長が、『アンチエイジングな日々』を
軽快な筆致でつづります。 どうぞお気軽にコメントをお寄せください。
萩焼の古里
萩は城下町である.
萩は焼物の町である.
だから萩の町では大名屋敷に混ざって窯元が犇めいている.
萩で内科を開業している羽田野先生の案内で、萩焼の十二代高麗佐衛門の窯を訪ねてからもう四半世紀が経ってしまった。
萩焼の古里_b0084241_20512854.jpg

郊外の緩やかな山道をくねくねと上り,更に落ち葉の散り敷く小道を分け入ると,可愛い山門に突き当たる.
その先に広がるつつましやかな庭園を見渡して,ハッと息を呑んだ.
池の回りを紅葉が囲み,常緑樹の緑を背に輝いている.
高尾の紅葉も艶やかである.又,その他にも十和田、日光と雄大な秋景色は日本中に展開する。
だが,紅と緑が生活のなかに溶け込んで,秋の錦を織りなしているこの素晴らしさ.

裏庭は松林である.緩やかな斜面に連なり,松林はその儘上りつづけて,小高い山を覆っている.
“あの松を切り出して,二、三年寝かすと丁度よい窯の薪になるんですよ.”
そう言いながら母屋の脇から窯元が姿を現した.
ちょび髭をはやし,ジーパンにサンダル履きで,つい先頃由緒ある十二代高麗佐衛門を襲名した国宝的陶芸家とはとても思えない.

萩焼きはそもそも,四百年程前に韓国から渡来した陶工達が始めたそうな.始めはどちらかと言えば粗削りの土器だったのが,この地方でみつかった土をつかい,上薬を工夫することで,あの淡いピンクがかった独特の萩焼がうまれたという.

裏の斜面には細長い窯が巨大ななまこの様にこちらを向いてはいつくばっている.
これは上り窯といって,中は四つ程の小部屋に仕切られ,焚き口は下端にある.
炎は下から順々に上に昇り,満遍なく中の土器を焼いて,上端の煙突から出ていく仕組みになっている.

窯元に誘われて小部屋の一つに入ってみた.
大人三人がかがんでやっとの広さである.
まわりにはエメラルドやトルコ玉のような石がびっちり埋まり,キラキラと輝いている.
元来の壁の土や,うわ藥りや,やにや,その他諸々が混ざり合い,何百年かの間に熱に鍛えられて出来た結晶だそうだ.
一旦焼き始めると二十四時間というもの,一睡もせず火を見守らなければならない.薪の出し入れで火加減を調整し,ひたすら祈り続け,窯開きの前は目が血走ってくるという.
秘められた空間を炎がごうごうと舞い,唯の土くれが宝物に変容していく様は妖しくも美しい幻想の世界である・・・

“どうです,お茶でも.”
先程の庭を見渡す茶室に抹茶が運ばれた.
庭の紅葉が滲みでたような萩焼きの淡い紅(くれない).中に泡立つ抹茶の緑は松の林を映しだしている.
一口,二口.ふくよかに日本の秋が私の体に滲みわたっていった.

“いかがです.”羽田野先生の声が響く.
“ええ.”とだけお答えした.
でも本当はキザを承知で言わせてもらえば,“日本の中にもまだ日本が残っていた,”と申し上げたかったのですよ,羽田野先生.
by n_shioya | 2013-04-09 20:52 | 美について | Comments(0)


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