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NPO法人アンチエイジングネットワーク理事長が、『アンチエイジングな日々』を
軽快な筆致でつづります。 どうぞお気軽にコメントをお寄せください。
スチューデント・ナース達
“麗しの五月に・・・”
ハイネは「詩人の恋」を春に託し,シューマンはそれをメロディーに乗せた.
雪解けを待ちかねて花は咲き乱れ,あたりは緑でむせかえる.北国の春は爆発的だ.
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その五月,可愛いスチューデント・ナースたちが黒いケープをサッと脱ぎ捨てれば,もうすっかり初夏の装いだ.揃いのショーツからスラリと伸びた足は,明るい日射しをもろに受けて,生毛がキラキラとまぶしい.
アパートの窓から僕が手を振ると,彼女等も笑顔で手を振り返す.
ここはニューヨークの真北のオルバニー.空気はあくまで澄みきっている.

ロイスもその一人だった.
父親はカナダの牧師さん.母親はやはり看護婦さんだった.故郷のモントリオールはオルバニーから更に北3,4時間の所にある.
小柄だけど鼻筋がスッととおり,目がキラッと輝いていた.
彼女には好きなインターンがいた.ポールという日系の二世だった.キビキビとして優しい.しかしロイスの気持ちはちっとも通じなかった.
やっと彼が誘いをかけてきた時,もうロイスはおかんむり.その日一日彼女は公園のブランコで,一人で砂を蹴っていた.
“お馬鹿なロイス,家においで”.
彼女はやってきた,ルーム・メートのロキシーを連れて.
ロキシーはスラッとした色白で,お茶目で,西洋人形のように可愛い子だった.その夜は皆でスキヤキをつっついた.
彼女達にはよくベビー・シッターを頼んだものだ.一時間で50セントも払ったかな.気のいい子達だった.僕が子守をして欲しかったくらい.

手術場にはペギーという気風のいいナースがいた.イタリヤ系の移民で陽気で,体重を半分にしたらかなりの美人の筈だった.でも彼女はこだわらない.スパゲッティのソースの腕前は誰にも負けないんだもの.
彼女はまたベテランの器械出しだった.ピシッ,ピシッと望みの器械が手のヒラに渡される.そのリズムの小気味よさ.僕でも手術の名手になったような気がしてくる.

アメリカ人は概して,公私の使い分けがピシッとしているが,ナースたちもそうだった.
徹夜のパーティの翌朝でも,早朝の回診時はさっと立ち上がって,グッドモーニング.サーと迎えてくれる.そのキリッとした顔には夕べのお楽しみの片鱗さえ留めていない.椅子をさっと引いてくれ,頼む前に見たいカルテを抜き出してくれる.ああ,これこそプロというものか

だが反面,プロは掟に忠実である.看護業務にはずれる事は絶対に融通を利かしてくれない.
例えば包交.これは医師がやることとマニュアルに書かれている.勿論包帯は手術と同じに大事だし,又医師は自分で傷の状態を見とどける必要がある.
だがしかし,夜中の二時に,絆創膏が一寸ずれてますが・・・と叩き起こされても,誰が素直にハイと言えるだろうか?たとえ電話の向こうに可愛い笑顔がまっていても.
それでもやはり着替えて出ていく.断れば鬼の夜勤婦長のお出ましだ.
そして部屋に戻ってからカッカとベッドの上で明け方まで転々反側する.

だがそれもこれもすべて半世紀たった今は,あのオルバニーの“麗しの五月”とともに懐かしい想い出である.
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by n_shioya | 2013-05-04 20:53 | コーヒーブレーク | Comments(0)


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