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NPO法人アンチエイジングネットワーク理事長が、『アンチエイジングな日々』を
軽快な筆致でつづります。 どうぞお気軽にコメントをお寄せください。 |
ソフトクリームの季節が来た。
あのコーンの上で白い渦を巻いているのを口にするたびに、僕はある男を思い出す。 その男は医学部の4年間いつも階段教室の最前列の中央に陣取って、熱心にノートを取っていた。 いまのように長髪、スキンヘッドなんでもありの時代と違って、もじゃもじゃでも一応七三に分けていた頃に、癖毛なのか彼の髪は頭のてっ辺で渦を巻いてソフトクリームを思わせた。 いつでもエスケープできるよう階段教室の最後部に座るのを常とした僕が、その高みから内職の合間に黒板を見下ろすと、いつもソフトクリームの頭が目に入った。 ある昼休み、学級委員長の我妻君に呼び止められた。 “君、クラスの中に誰も名前を知らない男がいるのを知ってるかい?” “そんな馬鹿な!” 午後の授業が始まると、階段教室の上から我妻君は最前列の男を指差して言った。“あいつだ。” それはソフトクリームの頭であった。 “あいつなら・・・”といいかけて気がついた。僕も名前を知らない。 百人のクラスだが、名前を知らないやつはいくらもいる。お互いほとんど授業には出ないからだ。 我々はすぐ医学部事務室に行き、学籍簿を繰って彼の写真が無いことを確かめ、学部長に報告に言った。学部長は精神科の内村教授だった 卒業まで後数ヶ月、偽医者になられては困るからである。 内村学部長は言った。 “おおこの君ならよく知ってるよ、名前は知らんがね。ふむ、偽学生か。” そして皮肉っぽく付け加えて下さった。 “だが今試験をすれば彼は君らよりずっといい点を取るね。” 学部長の許可をもらい、我々は彼を連行して、運転手つきの学部長車で彼の家に向かった。 父親は驚愕した。ある高校の校長だったのだ。 実は彼は旧制高校のとき入試に失敗し、厳格な父親に言い出せず、そのときから旧制高校の1年、新制教養学部2年そして医学部の最終学年まで計7年間、偽学生を続けていたのである。 いったい彼は今どうしているだろう。 「君たちより真面目な学生だった」と皮肉った医学部長の言葉を思い出し、複雑な思いを抱かずにはいられない。 もし彼が偽医者をやっていたら、かろうじて免許証を維持している一部の本物医師より、ずっとまともな医療を行っているのではないかと。
by n_shioya
| 2013-06-09 21:11
| コーヒーブレーク
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塩谷信幸
1931年生まれ
東京大学医学部卒業 北里大学名誉教授 北里研究所病院形成外科・美容外科客員部長 AACクリニック銀座 名誉院長 NPO法人アンチエイジングネットワーク理事長 見た目のアンチエイジング研究会代表世話人 東京米軍病院でのインターン修了後、1956年フルブライト留学生としてアメリカに渡り、オルバニー大学で外科を学ぶうちに形成外科に魅了される。数年の修業の後、外科および形成外科の専門医の資格を取得。 1964年に帰国後、東京大学形成外科勤務を経て、1968年より横浜市立大学形成外科講師。1973年より北里大学形成外科教授。 1996年に定年退職後も、国際形成外科学会副理事長、日本美容外科学会理事として、形成外科、美容外科の発展に尽力している。 現在は、北里研究所病院美容医学センター、AACクリニック銀座において診療・研究に従事している。 >>アンチエイジングネットワーク >>NPO法人創傷治癒センター >>医療崩壊 >> 過去のブログはこちら(2005年5月26日~2006年5月26日)
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