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NPO法人アンチエイジングネットワーク理事長が、『アンチエイジングな日々』を
軽快な筆致でつづります。 どうぞお気軽にコメントをお寄せください。
富士屋ホテルの箱根
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昨今、軒並みに名所観光地が俗化して行く中で、箱根だけは不思議に昔の面影をとどめているように思われる。
アメリカでの八年間、日本を恋しがったことは一度もない不届き者の僕も、温泉だけは懐かしく思ったものだ。
それも、山あいの宿から昇る湯煙、木賀、底倉といった、名前を聞くだけでも宿場の賑わいが感じられる温泉宿、つまり箱根であった。
アメリカから帰るとまず、車を飛ばして九十九折の旧道を上り、宮の下にそびえるあの古風な御殿のような富士屋ホテルのロビーに飛び込み、ソファーに深々と腰を据え、コーヒーをすすりながら、これから箱根がどんな顔でむかえてくれるか、占ったものである。
仙石原の小塚山、いまポーラの美術館のあるあたりに家を借りて、ひと夏を箱根で過ごしたのは、小学校の二年生のときだったと思う。
車のない時代で、どこへ行くにも日に数回しか来ないバスに頼るしかなかった。
週末には東京で開業していた父がゴルフに来て、家族と一緒にすごした。
土曜の夜来て、日曜の朝早く富士屋ホテルのゴルフ場に出かける。それにお供して送って行くのが僕と、ひとつ上の姉の役目だった。
我々はゴルフはやれないので、あとは二人で帰ってくる。
仙石原を突っ切って、乙女峠の入り口にあるゴルフ場まではおよそ一時間の道程だった。
ある日の帰り道、葦の草むらから男の子がぬっと現れた。
“お前、スカートを脱いで、俺に見せな。”
と姉を脅す。
僕は姉をかばうこともせず、ただ震えて立っていた。
“フン、なによ。あんたが先に脱いでお見せ”
姉が啖呵を切った。
気圧された男の子は、“へえ、すんません。”と逃げていった。
それから家に帰るまで、お互いに一言も口をきかなかった。
おおよその場合、女のほうが太目の肝っ玉に恵まれているという生物界の法則は、以来折に触れて思い知らされ今日に至っている。
富士屋ホテルの華御殿に始めて泊まったのは、、小学校五年の時、富士登山の帰りだった。太平洋戦争が始まって世の中では物資が極度に不足しているというのに、ここだけは別世界だった。
名物の社長は立派なカイゼル鬚がご自慢だった。
“夜寝るときは、坊ちゃん、この鬚には皮のサックをかぶせるのですぞ。”と真顔で教えてくれた。
先週末もオーベルジュからの帰路、富士屋ホテルのテラスでコーヒーをすすりながら昔を思い出し、アレは担がれたのかな、と思い返したが、社長もとっくに他界して確かめようもなかった。
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by n_shioya | 2016-04-30 21:18 | コーヒーブレーク | Comments(0)


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