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NPO法人アンチエイジングネットワーク理事長が、『アンチエイジングな日々』を
軽快な筆致でつづります。 どうぞお気軽にコメントをお寄せください。 |
夕方、銀座クリニックの仕事にけりをつけ、第二回「夢を語り合う会」に出かけようとした時、配偶者から電話が入った。
仕事場に電話することを極度に遠慮する彼女には珍しいことである。(彼女は男にとって仕事場は神聖なものと誤解してくれている) お袋が心不全になってケアホテルから病院に運ばれ、妹が向かっていると言う。 99%親不孝な僕は、それじゃ取りあえずは妹から容態を聞いてからと思い、会合の場所に連絡をくれるよう頼んで電話を切った。 だが数分もしないうちに、僅か1%ほどの親思いの部分が急に膨れ上がり、又、妹に任せっぱなしというのも気がとがめ始め、急遽会合の参加をキャンセルし、湾岸道路を許容範囲内のスピードオーバーで走り続けた。 その間僕の頭はただの空騒ぎであるよう念じながら、最悪の事態まで想定し、其の両極端を揺れ動いていた。 ケアホテルの対応は何時も慎重で、ちょっとの異変でもすぐ入院と言うことが過去に何度かあったが、反面、99歳の老婆なら何が起こっても不思議はない年齢である。 最悪の方に頭が振れているときは、子供時代の母親がしきりと脳裏に浮かぶ。 意気地なし、人に勝ちたいと思わないの、とののしるあの勝気な母がいなければ、良くも悪くも今の僕はなかった筈である。 試験も大嫌いで、それから逃れるためなら中学など行かなくていいとさえ思った。 其の本音をちらと洩らした時のお袋の憤怒と絶望の形相は今でも目に浮かぶ。 お袋はクリスチャンではないが、葬式は教会でして欲しいといってたのも思い出した。 でも、教会は信仰の場で決して儀式のためにあるのではない、プロトコール重視のメンタリティは外務省の役人に任せればよいと言う拒否反応も頭をもたげるが、反面、私はあの賛美歌と白い献花で送られたいのという気持ちも無視できない、どうしたものだろうと先走って悩んでいる内に病院についてしまった。 病棟の入り口には妹が待ち構えていた。 “大丈夫、大丈夫。もうだいぶ回復したし、しばらくこのまま酸素吸入を続ければ落ち着くでしょうって。” “なんだそうか。やっぱ勝気なだけあって、しぶといなお袋は。” 僕は答えた。 勿論、往生際が悪いなど罰当たりな言葉は口にはしなかったが。 だがほっとするとすぐに親不孝がみるみる膨れあがって99%を占め、又親孝行を1%に押さえ込んでしまったことは確かである。
by n_shioya
| 2006-10-16 23:43
| 介護
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Comments(1)
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塩谷信幸
1931年生まれ
東京大学医学部卒業 北里大学名誉教授 北里研究所病院形成外科・美容外科客員部長 AACクリニック銀座 名誉院長 NPO法人アンチエイジングネットワーク理事長 見た目のアンチエイジング研究会代表世話人 東京米軍病院でのインターン修了後、1956年フルブライト留学生としてアメリカに渡り、オルバニー大学で外科を学ぶうちに形成外科に魅了される。数年の修業の後、外科および形成外科の専門医の資格を取得。 1964年に帰国後、東京大学形成外科勤務を経て、1968年より横浜市立大学形成外科講師。1973年より北里大学形成外科教授。 1996年に定年退職後も、国際形成外科学会副理事長、日本美容外科学会理事として、形成外科、美容外科の発展に尽力している。 現在は、北里研究所病院美容医学センター、AACクリニック銀座において診療・研究に従事している。 >>アンチエイジングネットワーク >>NPO法人創傷治癒センター >>医療崩壊 >> 過去のブログはこちら(2005年5月26日~2006年5月26日)
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