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NPO法人アンチエイジングネットワーク理事長が、『アンチエイジングな日々』を
軽快な筆致でつづります。 どうぞお気軽にコメントをお寄せください。 |
まさかと思ったがヤッパリそうだった。
こいつはヤバイ。 なんとなく左の太ももの付け根に違和感があるので、左手をズボンに突っ込んで触ってみると,付け根の少し上に計2センチほどのふくらみがある。ふにゃふにゃと柔らかで痛くもない。仰向けに寝るとすっと消えてしまう。 典型的な鼠径ヘルニアである。 一瞬、インターンの頃手がけたヘルニア手術の様が脳裏をよぎる。 アッペ(虫垂炎)、ヘルニアといってインターンのメス下ろし、つまり手術入門に使われる手術である。だが、決して安易に考えてはいけない。下手な手術で再発を繰り返すとだんだん根治がが難しくなる。ほっておくとカントンといって飛び出た腸が戻らなくなることがあり、更には腸がヘルニア口に締め付けられると、腸が腫れて悪循環を起こし、血行が絶たれて腸が死んでしまい、勿論持ち主の命も危うくなる。これを絞葯という。 しかも成人のヘルニアはいったん発生したら自然には治らない。だが、手術は怖い。 おそるおそる,僕はクラスメートの消化器外科の大家に電話した。 “何、ただのヘルニアだろ。そんなの年寄りにゃ珍しくないよ。カントンしてるわけじゃないだろ。ほっとけ、ほっとけ。” と相手にしてくれない。 “でもさ、いったん出来たら一人じゃ治らないだろ。だんだん大きくなれば手術も難しくなるし” とねばっても “どうせそのうち反対側もなるからさ。” となかなか診てやろうとも言ってくれない。 診ては欲しいけど、手術はごめんというこっちの本音を見透かしているのかもしれない。 そもそもなんでこんなことになるのか? 確かに老化現象の一つで、顔の皺と同じくコラーゲンの変性である。 つまりからだの支持組織であるコラーゲンが劣化して、防御壁であるべき腹壁がよわくなり、腹圧がかかると腸が飛び出てくる。このところ慢性便秘で力むことが多いのが、僕の場合最たる原因であろう。 又、目のしたの膨らみも、眼窩脂肪といってクッションのように眼球を支える脂肪が、前の隔壁のコラーゲンが緩んで弱くなったために、突出したもので、眼窩脂肪のヘルニアという言い方があるくらいだ。顔のしわ取りも下眼瞼の脂肪除去も、僕が現役のとき数多く手がけた手術である。 こう考えながらぼくは、これまで脅しや甘言で僕のメスの餌食になった方々のことを思い浮かべた。 こりゃあかん、やはりこちらも覚悟を決めて。 と癪だが僕も消化器外科の軍門に下ることとした。
by n_shioya
| 2007-01-30 21:14
| 手術
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Comments(2)
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塩谷信幸
1931年生まれ
東京大学医学部卒業 北里大学名誉教授 北里研究所病院形成外科・美容外科客員部長 AACクリニック銀座 名誉院長 NPO法人アンチエイジングネットワーク理事長 見た目のアンチエイジング研究会代表世話人 東京米軍病院でのインターン修了後、1956年フルブライト留学生としてアメリカに渡り、オルバニー大学で外科を学ぶうちに形成外科に魅了される。数年の修業の後、外科および形成外科の専門医の資格を取得。 1964年に帰国後、東京大学形成外科勤務を経て、1968年より横浜市立大学形成外科講師。1973年より北里大学形成外科教授。 1996年に定年退職後も、国際形成外科学会副理事長、日本美容外科学会理事として、形成外科、美容外科の発展に尽力している。 現在は、北里研究所病院美容医学センター、AACクリニック銀座において診療・研究に従事している。 >>アンチエイジングネットワーク >>NPO法人創傷治癒センター >>医療崩壊 >> 過去のブログはこちら(2005年5月26日~2006年5月26日)
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