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NPO法人アンチエイジングネットワーク理事長が、『アンチエイジングな日々』を
軽快な筆致でつづります。 どうぞお気軽にコメントをお寄せください。 |
“父上がお亡くなりになったそうで。”
“はあ。後10日で106になるはずでしたが。” “それで母上は?” “2年前、99でなくなりました。” “それは、それは。でもそれでは先生も100歳は間違い無しですね。” “いや,そんな悪い冗談は止めてください。” この三月、親父を106歳マイナス10日で看取ってから、こんなやり取りを何度繰り返したことか。 悪い冗談といったのは半ば冗談だが,半ばは本音である。 いろいろな老いの姿を見てくると,ただ長命であることに何ほどの意味があるか,いささか懐疑的になることも多いのと,なんでもかんでも遺伝子で片付ける風潮に抵抗があるからだ。 俗に不老長寿と言うが,不老ということが可能なら長寿も結構でしょう。だがそうではないのが現実で,その現実といかに戦うかがアンチエイジングの主題だが,何故遺伝子説に抵抗があるか述べることにしよう。 1956年,ワトソン・クリックが二重螺旋に潜む生命の鍵をこじ開けて以来,分子生物学は飛躍的に進歩し、生命体における遺伝子の役割が次々と明らかになってきた。 ノーベル賞受賞者のジャック・モノーなどは,人類の将来はすでにDNAで決定されているとさえ言いきっていた。 確かに癌を始めほとんどの疾患について,その発現に関わる遺伝子が見つけられつつある。 だがそれはいわゆるメンデルの法則のような,白黒はっきりとした規定ではなく,ほとんどがある一つの傾向を示唆するに過ぎない。前者のように一つの遺伝子で決まる場合を単一遺伝子病と呼ぶが,ほとんどの場合は多遺伝子病である。 単一遺伝子病にはその数はあまり多くなく、関係する遺伝子を責任遺伝子と呼ぶ。病因となる遺伝子を持っている人の何パーセントが発病するかを示す数値を浸透率というが,単一遺伝子病では浸透率が高いだけでなく,生まれてからすぐ発病するものも多い。 これに反し,生活習慣病のような多遺伝子病は関係する遺伝子が多数あり,これらを感受性遺伝子と呼ぶが,浸透率は低い。 つまり遺伝子は,なりやすい傾向を意味するが決定ではないといえる。 それでは決定は何によってなされるのだろうか。 もっとも大きな要因が環境因子であり、そのなかには生活習慣や外的刺激が含まれる。 そしてそのどちらもが自分でコントロールできる部分が多い。 さて,ある病気について環境因子と遺伝性のウェートを検討するにはどんな方法があるだろう。 可能な方法を列挙すると ①いくつかの家系を追跡調査する。 これはたまたまそのような家族が見つかればだが,どの病気にもというわけにはいかない。 ②異なった環境で生活している同一人種での比較。 例えば日本人の胃癌や糖尿病について、日本人と日系米人と比較する方法である。 ③違った家族に育てられた兄弟を比較する。 ④一卵性双生児について,環境による差異を比較する。 一卵性双生児は遺伝子は同一であるから、これによって環境因子は最もきれいに浮き彫りにされるはずだ。 幸いスウェーデンでは,1886年から1958年の間に生まれた25000組の一卵性双生児 が登録されており,マッカーサー財団はこの集団について,統計的解析を行った。 その結果,肥満,高脂血症,血圧,肺機能,糖尿病そして脳の働き等、加齢で生ずるす べての状態において,ある程度の遺伝性は認められるものの,環境因子のほうがはるかに影響力が強く,それも年をとればとるほど遺伝要因は薄れ、ライフスタイルの違いが強く現れることがわかった。 つまり遺伝性の疾患ほど若いうちから発現して,寿命を縮めることなり、もろもろの環境因子に耐えてある程度まで来たものはそれなりに抵抗力が強く,さらに長生きすると考えれば、ある意味でこれは当然のことといえる。 多少乱暴かもしれないが,65歳過ぎての健康状態は,ほとんどがその人自身のライフスタイルというか責任であるといえる。 とこれまでは説いてきたが、ところが最近の遺伝子解析の進歩で、生活習慣病そのものの遺伝性や、個人個人に対する治療の効果、更にはサプリメントの有用性の予測までが、可能になり始めたというのが、最近ヨーロッパの学会を飛び回っている、AACクリニック銀座の浜中医師の報告である。 つまり、従来の医学は「治療の医学」で、それに対しアンチエイジングは「予防の医学」といえるが、今生まれつつある遺伝子医学は、「予測の医学」!だとすっかりDNAにはまっている。 そしてまた来月はニースに飛んで最新情報を仕入れてくるという。 だが「予測の医学」が更に飛躍して「決定の医学」になってしまうと、未来がわかりすぎて当人にとっては夢も希望もなくなってしまうのではなかろうか。
by n_shioya
| 2008-05-18 21:54
| アンチエイジング
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Comments(4)
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塩谷信幸
1931年生まれ
東京大学医学部卒業 北里大学名誉教授 北里研究所病院形成外科・美容外科客員部長 AACクリニック銀座 名誉院長 NPO法人アンチエイジングネットワーク理事長 見た目のアンチエイジング研究会代表世話人 東京米軍病院でのインターン修了後、1956年フルブライト留学生としてアメリカに渡り、オルバニー大学で外科を学ぶうちに形成外科に魅了される。数年の修業の後、外科および形成外科の専門医の資格を取得。 1964年に帰国後、東京大学形成外科勤務を経て、1968年より横浜市立大学形成外科講師。1973年より北里大学形成外科教授。 1996年に定年退職後も、国際形成外科学会副理事長、日本美容外科学会理事として、形成外科、美容外科の発展に尽力している。 現在は、北里研究所病院美容医学センター、AACクリニック銀座において診療・研究に従事している。 >>アンチエイジングネットワーク >>NPO法人創傷治癒センター >>医療崩壊 >> 過去のブログはこちら(2005年5月26日~2006年5月26日)
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