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NPO法人アンチエイジングネットワーク理事長が、『アンチエイジングな日々』を
軽快な筆致でつづります。 どうぞお気軽にコメントをお寄せください。 |
明日の新年会で、僕は挨拶代わりにショートスピーチを考えている。
そもそも僕は書くことが嫌い、喋ることも苦手で、依頼された時以外に自分から喋ろうと思ったことはない。 だが今回は自分からスピーチを提案した。 どうしても皆さんにお伝えしたいメッセージがあるからだ。 それは 「容貌のメッセージ性」 去年の7月の青山学院での講義のテーマである。 そのあらましはすでにブログに記したが、明日はジッドの「田園交響楽」を取り上げるつもりで、いま読み返している。 祖母が死んで孤児となっためくらの少女を引き取り、育てるようになった、フランスの田舎の牧師さん一家の話だ。 その祖母がオシであったため少女は言葉も話せない。 その少女をジェルトルードと名付け、彼女に愛情を注ぎ、教育していくのが神の思し召しと信じた牧師は、献身的に少女を育てていく。その愛情が何時しか男と女の感情に変容していくのを認めようとしないまま。 その甲斐あってか、少女はやがて知性溢るる美少女へ変身していく。 牧師の長男ジャックも少女に心を惹かれ、結婚まで考えるようになる。 其れを知った牧師は、烈火のごとく怒り、神の業への冒涜だと長男を遠避けようと試みる。 丁度その頃牧師は知人の医師から、少女の視力は手術で回復の見込みがあることを告げられる。 牧師は悩みながらも、手術を受けさせることに同意する。 手術が成功し、彼女が帰宅する前日、牧師は日記にこう書き記す。 “今まで私の姿を見ずに愛してくれた彼女に、この姿をさらさねばならぬ。これが私だと、わかってくれるだろうか。生まれてはじめて、私は恐る恐る鏡を覗く・・・” 彼女が帰宅した直後、牧師の恐れた事態が展開する。 川に身を投げて自殺を図った彼女は、次のように牧師に告げて息を引き取る。 “ジャックさんを一目見たとき、あたしはたちまち、自分がお慕いしていたのはあなたじゃなくて、あの方だったことを悟りました。あの方は、あなたにそっくりの顔をしてらしたのです。というのは、つまり、あたしが胸に描いていたあなたのお顔に、そっくりだったのです。・・・” と、悲劇は幕を閉じる。 中学生で感激しながら読んで時、僕はまだ洗礼を受けていなかった。 いま、読み返すと、ジッドのすべての小説がそうであるように、カトリシズムとプロテスタンティズム特にカルヴィニズムとの、そして自由人としての相克が、底流にあることはよくわかる。 だが昔は、そのような素養がなくも、いやないがゆえに、純粋にその悲劇性に感動したものだった。 そして今は? ある映画での主演女優のセリフ “老いは残酷なものよ” を、鏡を前にした牧師に重ね合わせ、反芻している。 ■
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by n_shioya
| 2010-01-26 22:59
| アンチエイジング
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Comments(8)
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アンチエイジングではないけれど『春琴抄』を思い出しました。
「容貌のメッセージ性」、塩谷先生の講演を拝聴してみたいです。 ![]()
みんな 老いるでしょう...他人が自分の老いを受け入れるかどうか…自分が自分の老いを受け入れるかどうか…いろいろなことをAcceptしながらその上で 今の自分に何が出来るのか…今日のブログでそんな事を考えました…
ミカロ さん:
ご期待にそえるといいのですが。
あやめ さん:
僕はもう、メスを捨てて思索にふける年になったというわけです。 ![]()
おひさしぶりです。
この世の春を謳歌している家の娘を見て、嬉しさ半分と嫉妬半分な私。 整形でウン百万かけて手直ししても、彼女の若さと美しさと輝きは取り戻せない。 なんか整形するのがチャンチャラおかしくなってきたこのごろです。 まだ序の口? ![]()
身も蓋もなくて申し訳ありません。
中途開眼者は光学的に見えても、形状の認識は脳の働きなので、そのような脳の処理を生まれた時から学習してきた、目が見える人のような認識はできないそうで、今までの周囲の情報に視覚という未経験の刺激が加わるので、脳はかなり混乱するそうですね。 ですから、この小説の場合、少女は急に開眼して、脳が混乱して自殺したというのが現実にありそうな(以下略) などという科学的事実がすぐに浮かぶわたしには文学を愛する教養学派には永久になれそうもありません。
きのこ組さん:
美しく年を重ねる、これがこれからのテーマです。
御隠居@横丁さん:
仰せの通り僕も、医学的には非現実的だと感じながら読んでいました。 でも、詩の場合には文法を無視してもよいという、ポエティック・ライセンスということもあるようですので。
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![]() 塩谷信幸
1931年生まれ
東京大学医学部卒業 北里大学名誉教授 北里研究所病院形成外科・美容外科客員部長 AACクリニック銀座 名誉院長 NPO法人アンチエイジングネットワーク理事長 見た目のアンチエイジング研究会代表世話人 東京米軍病院でのインターン修了後、1956年フルブライト留学生としてアメリカに渡り、オルバニー大学で外科を学ぶうちに形成外科に魅了される。数年の修業の後、外科および形成外科の専門医の資格を取得。 1964年に帰国後、東京大学形成外科勤務を経て、1968年より横浜市立大学形成外科講師。1973年より北里大学形成外科教授。 1996年に定年退職後も、国際形成外科学会副理事長、日本美容外科学会理事として、形成外科、美容外科の発展に尽力している。 現在は、北里研究所病院美容医学センター、AACクリニック銀座において診療・研究に従事している。 >>アンチエイジングネットワーク >>NPO法人創傷治癒センター >>医療崩壊 >> 過去のブログはこちら(2005年5月26日~2006年5月26日) 以前の記事
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