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NPO法人アンチエイジングネットワーク理事長が、『アンチエイジングな日々』を
軽快な筆致でつづります。 どうぞお気軽にコメントをお寄せください。 |
先週東急文化村のジヴェルニー展で買ってきた「印象派はこうして世界を征服した」を夢中で読んでいる。
著者はフィリップ・フックという画商で、クリスティーズやサザビーのディレクターを歴任している。 ただの美術評論ではなく、印象派の絵が最初は嘲笑の的にされながら、いかにコレクターにもてはやされるようになったか、そしてその間にたって画商がどんな役目を果たしたか、又今でも絵画市場はどんなメカニズムで動いているか、現場のプロとして様々なエピソードを交えながら、印象派の勃興と現在も続く人気を興味深く綴っている。 昔父の友人の画商に言われたことがある。 “坊ちゃん、ね、絵というものは自分で買い集めてみなければわからんものですよ。” 例え何万でも、また何百万でも出しても手に入れたいと思い、実際に無理をしてでも自分のものとすることで初めて、観る目も養われるということらしい。 それに、本当は絵にしても、展覧会場でせかせかと見て回るのと、自分の部屋に飾って日夜ゆっくり眺めるのとでは、味わい方が全く違うだろうことも分かる。だがそのようにして名画を鑑賞できるのはごく一部の人に限られるだろう。 この本にはそのごく一部の人と、印象派時代に生まれた仲介役としての画商との、虚々実々のやりとりも描かれている。 所で絵画の価値はどう決まるのだろう。 すべて、ものの市場価値は単純には需要と供給、つまり買い手と売り手のバランスできまる。だが絵の場合、画商、コレクターそしてただの鑑賞者、それぞれにとって価値の基準は微妙に異なるのではなかろうか。 画商にとっては売れること、たとえそれが長期投資であっても。 そのためにはコレクターの好みを先取りせねばならぬ。画商の鑑識眼はその辺にあるようだ。 では、コレクターを含めた鑑賞者の判断基準は? 端的に言えば、その絵に魅力を感じるかどうかであろう。 魅力を感じさせるもの、それが美である、という美の定義も可能だ。 其の美意識はどこからくる? 僕はここで自分の土俵に引っ張り込みたい。 それは細胞生物学である。 細胞が活性化するためには、リガンドという刺激物質が必要である。成長因子、ホルモンなどがその代表的なものだ。だが、そのリガンドが効果を発揮するには、細胞に受け皿が必要である。これが細胞膜に存在するリセプター(受容体)と呼ばれるものだ。 リセプターがなければいくらホルモンがあっても、細胞は反応しない。反対にリセプターが豊富なら、少量のリガンドでも細胞は活性化する。 又、リセプターは細胞にもともとあるものもあるが、リガンドに接することで細胞膜により多く発現するものでもある。 僕の言いたいことはこうだ。 “美”は、そのもの自体は定義できないとされている。 “心地よく感ずるもの”、という属性で定義するしかないと、美学者は言う。つまり、“魅力”を感じさせるものということになる。 つまり美は細胞生物学でのリガンドにあたり、リセプターが美意識といえる。 そして美意識もリセプター同様、美に接することで豊かになっていくのではなかろうか。 というわけで、これから僅かずつでも、美のリセプターを育てたい願っている。
by n_shioya
| 2011-01-29 23:09
| 美について
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Comments(6)
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ぽん
at 2011-01-30 11:03
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先生にはとても及ばないですが、私も「美」に触れ、そして吸収することが大好きです。
絵画・歴史・書物・音楽など、ジャンル問わず良いものに触れれば触れるほど感性や心が磨かれていくと思っています。 先生のような方が美容・形成外科の第一人者であられるとは・・。 とても幸せな気分になってまいりました。
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ruhiginoue
at 2011-01-30 11:22
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印象派の画家たちは視力に問題があってよく見えないから印象で描くしかなかったとも言われますね。
美術取引といえば月光壮事件を思い出しますが、その経営者は美術で大儲けしたから娘に音楽の英才教育を施せたとも言われます。 そのピアニスト幼少時に縁あって自宅に出入りしていたのが若き日の今は亡き筑紫哲也氏で、それが関心の動機かは不明ですが、美術品取引をめぐる醜い裏話を告発する記事で、関わった政財界人を怒らせ発行元の新聞社にすごい圧力で、編集長辞任に追い込まれ、そのご同誌は売れなくなり休刊となったのは周知のとおりですが。
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n_shioya at 2011-01-30 22:07
ぽん さん;
こうして御一緒に感性を磨いていきましょう。
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n_shioya at 2011-01-30 22:12
ruhiginoue さん;
確かにモネも白内障でしたか、又ドガも眼疾患で晩年は油絵は重荷でパステルに変えたとか、ルノアールもりゅうまちでゆびがつかえなくなったとか、芸術家と疾患の関係は興味あるテーマかもしれませんね、ゴッホは言うまでもなく。 月光荘事件は効いていましたが、筑紫哲也氏の件は知りませんでした。
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マイコです☆
at 2011-02-01 18:37
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先生~、大変お久しぶりでございます。my人生いろいろありまして・・・。メリークリスマスもお正月も過ぎましたが、本年もどうぞよろしくお願いいたします。そしてですが、印象派の画家が眼疾患が多かったからというのは、初耳です。ユゴーの当時の記録に、印象派の画家たちは、鉄道が地上を走り始めたそのスピードで見える、「風が光る風景を瞬間に収めた」と記している、と聞いたことがあります。そんなコメントも夢があって、私は好きです。
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n_shioya at 2011-02-01 22:20
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塩谷信幸
1931年生まれ
東京大学医学部卒業 北里大学名誉教授 北里研究所病院形成外科・美容外科客員部長 AACクリニック銀座 名誉院長 NPO法人アンチエイジングネットワーク理事長 見た目のアンチエイジング研究会代表世話人 東京米軍病院でのインターン修了後、1956年フルブライト留学生としてアメリカに渡り、オルバニー大学で外科を学ぶうちに形成外科に魅了される。数年の修業の後、外科および形成外科の専門医の資格を取得。 1964年に帰国後、東京大学形成外科勤務を経て、1968年より横浜市立大学形成外科講師。1973年より北里大学形成外科教授。 1996年に定年退職後も、国際形成外科学会副理事長、日本美容外科学会理事として、形成外科、美容外科の発展に尽力している。 現在は、北里研究所病院美容医学センター、AACクリニック銀座において診療・研究に従事している。 >>アンチエイジングネットワーク >>NPO法人創傷治癒センター >>医療崩壊 >> 過去のブログはこちら(2005年5月26日~2006年5月26日)
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