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NPO法人アンチエイジングネットワーク理事長が、『アンチエイジングな日々』を
軽快な筆致でつづります。 どうぞお気軽にコメントをお寄せください。 |
「ムンテラ」と言うと何か仏教用語のようだが、あれはマントラであって、これはドイツ語で口を意味する「ムント」と治療を意味する「テラピー」を組合わせた、れっきとした「和製ドイツ語」である。
その主旨は、“患者に対する医者の説明”のことだ。 もともと傷跡や顔形を気にしてやってくる形成外科の患者にとって、本人の精神的な満足がゴールであり、ムンテラ、つまり患者と医者との意思疎通が強調される所以である。 ところがこれが必ずしも容易な事ではない。 ある時、自動車事故で全身に大火傷を負った青年がかつぎ込まれてきた。 十数回の移植手術の後、幸いに本人の強じんな意志と若さのおかげで、体はほぼ元通りになったが、顔は火傷が深かったため、数度の皮膚移植にもかかわらず、お面をかぶったような顔になるのは避けられなかった。 その後無事職場に復帰し、月一度の外来通院のあるとき彼は、今だから申し上げますが、と入院中の心の動きを語ってくれた。 先生から“これで顔の手術は終わった”、と言われたときは正直ショックでした。 火傷をして一週目、丁度危機を脱したとき、“先生は心配するな、手術すればよくなるから”、と言ってくださいました。 勿論今では先生が言われた意味はよくわかります。 “やっと助かった、今度は顔の番だ。何とか今よりは良くするから。”と言う励ましだったのは。 でもそのとき僕は、ああ、これで手術を受ければ、顔は元通りになるのだと思い込んだのです、と。 “よくなる、”と言う言葉一つとっても、言う側と受ける側でこれだけの違いが生じうるものだ。 熱傷に限らず、形成外科では術後、抜糸までの4、5日から一週間ほど、患部を包帯で巻きっぱなしにしておくことが多い。 これは決して横着をしてるわけでなく、出血や感染の恐れがないかぎり、手術部位をそっとしておいたほうが治りがよいと考えるからである。 患者はその為、包帯交換の時まで四六時中、包帯のとれた瞬間のことだけを考え続けている。 その瞬間の医者の反応で、患者自身の評価が決まってしまうと言っても過言でない。 抜糸の頃の手術部位というのは、まだ腫れや内出血もあり、素人には判断がつきにくい状態である。 その時、“これがあたりまえで手術は大成功でした”、と即座に言ってあげることが必要である。 照れることはない、これが「ムンテラ」の真髄なのだと、若い医師には教え込むようにしている。 くどいようだが形成外科では、“患者の満足が手術の成功”なのだから。
by n_shioya
| 2013-02-08 21:22
| 医療全般
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塩谷信幸
1931年生まれ
東京大学医学部卒業 北里大学名誉教授 北里研究所病院形成外科・美容外科客員部長 AACクリニック銀座 名誉院長 NPO法人アンチエイジングネットワーク理事長 見た目のアンチエイジング研究会代表世話人 東京米軍病院でのインターン修了後、1956年フルブライト留学生としてアメリカに渡り、オルバニー大学で外科を学ぶうちに形成外科に魅了される。数年の修業の後、外科および形成外科の専門医の資格を取得。 1964年に帰国後、東京大学形成外科勤務を経て、1968年より横浜市立大学形成外科講師。1973年より北里大学形成外科教授。 1996年に定年退職後も、国際形成外科学会副理事長、日本美容外科学会理事として、形成外科、美容外科の発展に尽力している。 現在は、北里研究所病院美容医学センター、AACクリニック銀座において診療・研究に従事している。 >>アンチエイジングネットワーク >>NPO法人創傷治癒センター >>医療崩壊 >> 過去のブログはこちら(2005年5月26日~2006年5月26日)
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