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NPO法人アンチエイジングネットワーク理事長が、『アンチエイジングな日々』を
軽快な筆致でつづります。 どうぞお気軽にコメントをお寄せください。
西安の想い出
西安がかっての長安と知らずに乗り込んでいったのは,迂闊とはいえ幸いであった.

「日中形成外科学会」で西安を訪れた僕は、第四軍病院の若い軍医、丁君の案内で,格別の期待もせずに小雨降る市内の観光に出掛けた.北京に較べ気温はぐっと低い.
柳の並木が続く幅広い道路は,東西南北に碁盤目の様に整然と並んでいる.
だが建ち並ぶ家並は屋根はかしぎ,塀は半ば朽ち,行きかう人々の服装も埃にまみれ灰色にくすんでいた.
そして香料と油.又排泄物が渾然一体となってかもしだす異臭.僕はそっと溜め息をついた.

だが街中に溢れる遺跡を巡る中に僕のショックは驚嘆に変わり,やがては中心部に立ちはだかる見事な城壁に感嘆し,中に入っては何百という石碑の立ち並ぶ碑林に圧倒され, “西安でもこんななら,長安はどんなに凄いでしょうね.”と思わずもらすと, “その長安なんですよ,この西安は.”と丁君は憮然とした面持ちである.
“すると今いる此処が唐詩選でお馴染みの「渭城」と言う訳で”と,こちらはしどろもどろになる.
そう思えば街は小雨でしっとり潤い,宿の前の柳は青々として,まさに千数百年の昔,王維が友を送った時の光景その儘ではないか.

“街の全体像を把握するには塔に登るのが一番です.”と丁君に言われ,次は「大鵞塔」に挑戦する.
「玄弉法師」の進言で建立されたという木造の七重の塔で,なかに急峻な螺旋階段が付いている.
各階の四方に窓があり,最上階からは西安の都が一望のもとにみわたせた.

何時の間にか雨はあがり,日が射して来た.
我々は郊外に足をのばす事にする.
先ずは「秦の始皇帝の墳墓」.
その先には20世紀最大の発見と言われる「兵馬裲」.
後楽園程の発掘現場が雨天体操場の様にドームで覆われ,その中に現寸大の兵士と馬達が6列の縦隊で何百と続く様はまさに壮観である.
発掘は今も続き完了予定は21世紀中という.
西安の想い出_b0084241_22165575.jpg

その夜,我々日本からの学会参加者に充てがわれた軍病院宿舎は暖房が無く,冷えきっていた.
寒さに震えながら,でも何故か戦後の耐乏生活を懐かしみながら僕は一夜をあかした.
だが『今時の若い者』はひ弱であった。
朝,シャワーがでない,髪が洗えないといってベソをかいている.
我々はお湯がでなくても,飯がボロボロでも,一寸昔へ戻ればそれで済むのだ. といっても私も便所の間じきりがお粗末なのには閉口したし,それなりの苦労はあった.

実ははこの旅は天安門事件の直前だから、もう四半世紀前の話である。
その後中国は政経分離で大飛躍を遂げ、公害をまき散らし、今や「東洋平和」を脅かす存在に変わりつつある。
丁君は今どうしているだろうか?
もう軍医少将にでもなっているだろうか。
そして西安は?

  “渭城の朝雨は軽塵を潤し   
  客舎青青,柳色新たなり.“

と歌はれた,緑滴る雅びやかな都、長安の面影をいまだに残しているだろうか。
by n_shioya | 2013-03-23 22:17 | コーヒーブレーク | Comments(0)


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