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NPO法人アンチエイジングネットワーク理事長が、『アンチエイジングな日々』を
軽快な筆致でつづります。 どうぞお気軽にコメントをお寄せください。
死を待つ患者
久々に熱傷学会に出席し、熱傷治療の進歩に感心させられると共に、未だ立ちはだかる重症熱傷の壁にも改めて想いをいたした。
それは前にも書いた筈の50年前のレジデントとしての経験である。
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『オルバニー大学病院の救急室に全身焼け爛れた男が担架で運ばれてきた。
近くの街のガソリンスタンドの爆発の犠牲者だった。
熱傷範囲はほぼ100%。統計的には助かる見込みはない。
だが我々は手分けして、点滴、気管内送管など、救命の操作のスタートにかかった。

その時、“待った”と声がかかった。
教授が救急室の戸口に立っていた。
手招きして我々に教授は聞いた。
“助かる見込みは?”
聞かなくても分かっているはずの答えを言った。“ゼロです。”
“無駄に患者を苦しめるな。”教授は押し殺した声で言った。

我々は教授の指示に従い、個室のベッドに綺麗なシーツを敷き、その上に患者を寝かし、更に綺麗なカバーで覆った。
受傷後まだ数時間しか経っていないので患者はショックにも陥らず、意識は明瞭である。
やけどが深いからか、あまり痛みも訴えない。
しっかりした声で“暫く入院ですか?”と聞いてくる。堪らなかった。

やがてヤケドの浮腫が進み、全身がパンパンに腫れあがる頃には、意識も朦朧となってきた。

痛がればモルヒネを打て、あとはなにもするな。というのが教授の命令だった。
そのうちに血圧も下がり、数時間で脈が完全に止まったが、死にゆく人を医師としてただ手をこまねいてみているその数時間は実に長く感じられた。

だがその数時間は、僕に医学の限界を思い知らし、その枠内では無為無策も治療の大事なひとつと教えてくれた貴重な経験だった。

どれほど医学が進歩しても、病苦は形を変えてもぐら叩きのもぐらのように頭をもたげる。
むやみに病との格闘を患者に強いるだけが医療でなく、苦しみを和らげることにこそ意義があるのではないか、そして時が来たら死を受容させること、これも医療のもっとも大切な部分かもしれない。
だが、それには技術者としての医師以上のものが要求されるが、今の医学部ではそれは教えてくれない。適当な言葉が見当たらないが、死生観と呼ぶべきものかもしれない。

これと同じような洞察力というか価値観が更に幅広く要求されるのが、今まさに僕が関わっている抗加齢医学、アンチエイジングメディシンではないかと、考え込んでいる。』
by n_shioya | 2013-06-12 22:15 | 医療全般 | Comments(0)


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