|
NPO法人アンチエイジングネットワーク理事長が、『アンチエイジングな日々』を
軽快な筆致でつづります。 どうぞお気軽にコメントをお寄せください。 |
米軍病院では、すべてが驚きであった。
まず、聴診器が違う顔をしている。学生時代のは、耳に当てる部分が、耳の穴に唯つっこむようになっているだけの、明治の頃から変わらぬスタイルで、今のイヤフォーンの様にバネの支えを持たず、僕の様に耳の穴が小さいとすぐ外れてしまう。その為実習で聴診に難航して指導教官に訴えると、テメー、誠意がないからだ、と「必勝の信念」で自滅していった、旧日本軍のメンタリティでどやされる。おかげで僕は心音もろくに聞けないまま、医学部を出されてしまった。 もっと本質的な違いは、ディスカッションである。日本の医学部では、教授がオールマイティで、批評は許されない。まして他科の教授が口を挟むことはあり得ない。すべてのカンファレンスは国会の審議と同じで、時間潰しの茶番である。 それが、アメリカ式のCPC(臨床医と病理学者の合同会議)では、ふだんは縁の下の力持ちの病理の教授が主役である。肝心の病理の確定診断を伏せ、途中経過だけを明かして、当該科以外の教授に診断を試みさせる意地の悪い試みである。結構有名な教授でも間違った診断をくだし、学生も居並ぶ満座の中で、恥をかかされる。なかなかに楽しめる「知的ショー」である。 このような面子を抜きにしたディスカッションは、日本の医学部では不可能であったし、今も成功しない。官僚と同じく日本の教授連は、自分の恥部に関しては、なりふりかまわず「守秘義務」を主張する種族であるから。 だが最大のカルチャーショックは、コーヒーショップにあった。前述の理由で我々は将校に誘われないと入れなかったが、そこで始めてチーズバーガーなるものに遭遇した。その美味なこと。しかも一緒の飲み物が、チョコレートのシェークである。このような取り合わせは、食いしん坊で甘党の僕にとっては、夢のような饗宴であった。 ジープのかっこよさで骨抜きにされた男がチーズバーガーとシェークで、アメリカに魂を売り渡したとしても、当時の日本の食糧事情を思えば、まあ許されることではなかったろうか。 さて一年して、チャブ屋のインターンたちは、一人を除き、皆アメリカに渡った。 数名はアメリカに永住し、帰国した者もみなそれぞれの専門で花を咲かせたのち、すでに引退した者も多い。 そして時代は移り、進駐軍といってももう通じない世代が、最も軽便な食生活として、当たり前の様にチーズバーガーを自分で買って、気楽に食するようになったのである。
by n_shioya
| 2013-07-04 22:56
| コーヒーブレーク
|
Comments(0)
|
塩谷信幸
1931年生まれ
東京大学医学部卒業 北里大学名誉教授 北里研究所病院形成外科・美容外科客員部長 AACクリニック銀座 名誉院長 NPO法人アンチエイジングネットワーク理事長 見た目のアンチエイジング研究会代表世話人 東京米軍病院でのインターン修了後、1956年フルブライト留学生としてアメリカに渡り、オルバニー大学で外科を学ぶうちに形成外科に魅了される。数年の修業の後、外科および形成外科の専門医の資格を取得。 1964年に帰国後、東京大学形成外科勤務を経て、1968年より横浜市立大学形成外科講師。1973年より北里大学形成外科教授。 1996年に定年退職後も、国際形成外科学会副理事長、日本美容外科学会理事として、形成外科、美容外科の発展に尽力している。 現在は、北里研究所病院美容医学センター、AACクリニック銀座において診療・研究に従事している。 >>アンチエイジングネットワーク >>NPO法人創傷治癒センター >>医療崩壊 >> 過去のブログはこちら(2005年5月26日~2006年5月26日)
以前の記事
検索
カテゴリ
全体 アンチエイジング スキンケア 医療崩壊 キズのケア QOL 老年病 介護 手術 全身療法 食生活 サプリメント エクササイズ エステティック ヘアケア 美について コーヒーブレーク 医療全般 原発事故 睡眠 美容外科 再生医療 再生医療 未分類 最新のコメント
フォロー中のブログ
ICELANDia アイ... 九十代万歳! (旧 八... ・・・いいんじゃない? 京都発、ヘッドハンターの日記 美容外科医のモノローグ ArtArtArt 芙蓉のひとりごと 真を求めて 皆様とともに... ファン
記事ランキング
ブログジャンル
画像一覧
|
|
ファン申請 |
||