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NPO法人アンチエイジングネットワーク理事長が、『アンチエイジングな日々』を
軽快な筆致でつづります。 どうぞお気軽にコメントをお寄せください。 |
先日の芸大学長の宮田亮平先生のお話にもあったが、人体プロポーションの基準値を割り出す試みは古代エジプト、ギリシャの時代からあった。
まずエジプトでは、中指の長さを基準とし、その19倍の身長を理想とした。 まら西洋ではなにかにつけて立ち返るのが古代ギリシャで、とくに紀元五世紀のポリクレイトスの示した規範が影響を与えている。 ポリクレイトスは人体各部の最も美しい比例率を割り出し、それに基づいて「ドリフォロス」(槍を担ぐ選手)など、いくつもの青銅像を作った。 彼は最も美しいプロポーションは七頭身であるとし、更に身体各部の長さにも、それぞれ理想とする比例率を挙げている。 またドリフォロスのモデルの槍持ちの従者の名前から「カノン」と題した、こうした比例率について著した本(現存しない)から、以後、人体の美の基準一般をカノンと呼ぶようになった。 古代ローマのカノンはいわゆる八頭身が理想とされ、更に足の長さは身長の二分の一、ひざまでの長さが足の二分の一というように、全体との比例が整っていなければならないとされた。 その後、中世の暗黒時代にはカノンについての議論は影を潜めた。人は神が自分になぞらえて創ったのだから、その体について評価することがはばかられたのだ。 しかしルネッサンスを迎えるとデューラー、ダヴィンチなどの巨匠達が、その頃流行り始めた人体解剖学の知識を取り入れ、様々な規準作りを試みた。 人体各部の計測値、角度の測定、幾何学的図形への単純化などである。 しかしこれら数値は、イメージ的には面白いが、あまりにもアバウトで、現実の患者さんの評価にはほとんど役立たないし、厳密にこれらに当てはまる人はいない。また、これから大きく外れれば、奇形である。 そもそもどれだけ計測してみても、それで美が規定できるものではない。 日本の美容外科の創始者の一人、丸ビル整形の故内田準一氏は患者さんの一人一人について、目の幅、眼裂、内眦(内側のまなじり)間距離,鼻の高さ、広さ、鼻翼の幅などを実に綿密に計測し、その比率、平均値などを報告されている。 「こうして時間をかけて計測していますがね、ま、自己満足ですよ。決して、日本人ノビの基準などお示しできませんよ。どうも、厳密に数値化しようとするほど、実態が逃げてしまうようで」 と、縁なしめがねの奥の目がやさしく笑って話してくださったことがある。 ほかにひとつ僕が釈然としないのは、これらはすべて白人の顔を美の基準として、決めてかかっていることである。十九世紀末から二十世紀始めにかけ、欧米の帝国主義は頂点に達し、白人が人類の進化の頂点であるかのごとき考えが支配的になった時代の傲慢さの名残ともいえる。
by n_shioya
| 2008-02-10 11:28
| 美について
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Comments(5)
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icelandia at 2008-02-10 16:58
外観の美を数値で表そうとすると不毛に陥るのですね。こちらのブログを読むようになり、「顔の美」というのは味覚と似ているなぁとも感じています。例えば甘さは糖度で計ることができますが、単に甘いだけでは「おいしく」は感じませんね。微量ミネラル等々、糖度とは一見無関係の要素がそこにあってこその「旨み」になる、と。音楽もそうなのかもしれません。
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Doc.K
at 2008-02-10 22:17
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塩谷流のアンチエイジングは、アンチエイジングの極意ですね。過去の蓄積・進取の気概があってこそなせる技ですが、私も見習おうと思ってます。でも、感覚的にばかり美を捕らえ、高橋健二訳のヘルマン・ヘッセきり読まなかった私には無理かな~~~! (自分の中指を計測し19倍してみました 笑・笑)
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at 2008-02-11 00:05
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ブログの持ち主だけに見える非公開コメントです。
初めまして、拙いブログですが、太極拳を通して、健康に留意したい心情を綴っています。リンクお願いできませんか?
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n_shioya at 2008-02-11 22:39
高野さん:
是非リンクをお願いします。
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塩谷信幸
1931年生まれ
東京大学医学部卒業 北里大学名誉教授 北里研究所病院形成外科・美容外科客員部長 AACクリニック銀座 名誉院長 NPO法人アンチエイジングネットワーク理事長 見た目のアンチエイジング研究会代表世話人 東京米軍病院でのインターン修了後、1956年フルブライト留学生としてアメリカに渡り、オルバニー大学で外科を学ぶうちに形成外科に魅了される。数年の修業の後、外科および形成外科の専門医の資格を取得。 1964年に帰国後、東京大学形成外科勤務を経て、1968年より横浜市立大学形成外科講師。1973年より北里大学形成外科教授。 1996年に定年退職後も、国際形成外科学会副理事長、日本美容外科学会理事として、形成外科、美容外科の発展に尽力している。 現在は、北里研究所病院美容医学センター、AACクリニック銀座において診療・研究に従事している。 >>アンチエイジングネットワーク >>NPO法人創傷治癒センター >>医療崩壊 >> 過去のブログはこちら(2005年5月26日~2006年5月26日)
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