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NPO法人アンチエイジングネットワーク理事長が、『アンチエイジングな日々』を
軽快な筆致でつづります。 どうぞお気軽にコメントをお寄せください。 |
ダナムラはニューヨークの北、カナダとの国境に近い田舎町である。
元来は良質な鉄鉱の産地で、スウェーデン鋼の産地ダナムラにちなんででつけられたという。 しかしニューヨーク子にとっては、州の刑務所(プリズン)の所在地として知られていた。 オルバニーからは双発のプロペラ機で一時間。 僕達は月に一回一晩泊まりで手術に行った。 空港からは迎えの車で、プリズンに向かう。小さな村ほどの施設を、高い城壁が囲っている。大きな鉄の扉が開き、車が入るとギーと閉まる。カフカの小説ではないが、もしこのまま開けてもらえなかったらと、馴れてきても不安のよぎる一瞬である。 中には独房、大部屋から、運動場、食堂、職員棟まで病院コミューニティを形成する要素はすべて完備している。 着いた晩は夕食を取りながら、担当医と手術の打ち合わせをする。 僕たちレジデントがここに来るようになったのは、形成外科による囚人のリハビリという、州政府のプログラムの一環だった ロンブロゾーではないが、囚人には人相で不利益を被っているものが少なくない。そこで顔の傷跡、喧嘩でつぶれた鼻、入れ墨など娑婆に戻っても更正のじゃまになりそうな要素を少しでも取り除いて、社会復帰に役立つかどうかの、実験であった。 とかく美容外科の手術は、スタッフが自分でメスを握り、レジデントには回さない。 刑務所は僕達レジデントの格好の練習場であった。 又、囚人たちにとっても、娑婆では目の飛び出るほどの高額の美容外科の手術を、無料で受けられるのでこんなうまい話はない。 しかも彼らは毎日退屈している。 麻酔が効かなくても、医師のメスを持つ手がふるえていても、じっと手術台におとなしく寝ていてくれる。 いつも助手をしてくれたのは、まだ若い、釈放間近の背の高い細面の模範囚であった。その後帰国間近になって、オルバニーのスーパーで声をかけられたとき、髪をきれいにとかし、こざっぱりとした背広姿の彼が、あのときの手術助手とわかるのには一寸間が必要だった。 この試みの結果については、長年の追跡調査が必要なこともあり、僕は承知していない。しかし、人相が与えるアク印象を和らげることは確かだから、何がしかの効果は期待できるのではないだろうか。
by n_shioya
| 2008-02-20 19:42
| 美について
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Comments(9)
とても関心のあるブログを見つけ、伺いました。
受刑者の更生のための形成外科手術とは、さすが米国は進歩的なことをしていますね。 いつ頃からその試みが行われているのでしょうか?釈放後の成り行き調査結果が是非知りたいです。 また、近年、犯罪の社会学的説明から遺伝学、神経生理学へと関心が再び移っていると聞きますが、どうでしょうか?
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dankkochikuさん:
40年前の留学時代の話で、その後フォローしていませんのですぐにはお答えできませんが、少しお時間をいただければ調べてみます。 また以前、このテーマで日本矯正医学会で話をした覚えもあるので、医学と犯罪社会学の関係は、そちらで分かるかも知れません。 ![]()
矯正により、人相が変わることによって、運命が大きく変わるなんてことも、観相学の点からしても大きくありそうなお話ですね。
私は半年ほどニューヨーク州寄りのカナダに居たので、ちょっと懐かしい感じもして、どこだろう?と好奇心でググってみました。今やダナムラはニューヨーク州最大の刑務所でダナムラの総人口の半分以上がClinton Correction Facilityにいて、有名人(?)が多いそうですね。
検索語が適切であったかはわかりませんが、受刑者の美容外科手術(全般)の文献はあまり無い印象です。残念。私が捜し出せたのは、性転換手術は認めないという判決でした。裏を読めば、他の美容整形手術は認められているということ、か。その手の手術はLevel4と呼ばれているそうなので、単にcosmetic やplastic surgeryではヒットしなかったのか? http://villageofdannemora.com/Dannemora_Old/index.html 上記には昔のダナムラ村の写真があります。これほど古い時代ではないかと思いますが、刑務所はきっと基本的にあんな感じだったのかなぁと思いました。写真で見ると牧歌的ですが、内情は大変だったことでしょう。 ![]() ブログの持ち主だけに見える非公開コメントです。
確かに城壁のようですね。でも中の建物の外観は、大学のキャンパスのようにも見えています。
性転換の判決文は以下にあります(URLが長いので縮めてあります。フィッシングサイト等ではありませんので、ご安心ください。)。 http://tinyurl.com/394ub2 ![]() ブログの持ち主だけに見える非公開コメントです。
![]() ブログの持ち主だけに見える非公開コメントです。
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![]() 塩谷信幸
1931年生まれ
東京大学医学部卒業 北里大学名誉教授 北里研究所病院形成外科・美容外科客員部長 AACクリニック銀座 名誉院長 NPO法人アンチエイジングネットワーク理事長 見た目のアンチエイジング研究会代表世話人 東京米軍病院でのインターン修了後、1956年フルブライト留学生としてアメリカに渡り、オルバニー大学で外科を学ぶうちに形成外科に魅了される。数年の修業の後、外科および形成外科の専門医の資格を取得。 1964年に帰国後、東京大学形成外科勤務を経て、1968年より横浜市立大学形成外科講師。1973年より北里大学形成外科教授。 1996年に定年退職後も、国際形成外科学会副理事長、日本美容外科学会理事として、形成外科、美容外科の発展に尽力している。 現在は、北里研究所病院美容医学センター、AACクリニック銀座において診療・研究に従事している。 >>アンチエイジングネットワーク >>NPO法人創傷治癒センター >>医療崩壊 >> 過去のブログはこちら(2005年5月26日~2006年5月26日)
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