|
NPO法人アンチエイジングネットワーク理事長が、『アンチエイジングな日々』を
軽快な筆致でつづります。 どうぞお気軽にコメントをお寄せください。 |
近畿大学の名誉教授の上石君が本を出版した。
「頭蓋顎顔面外科 術式選択とその実際」という、難しい名前の教科書である。 頭蓋顎顔面外科とは英語ではクラニオフェーシャルサージャリーと言い,奇形や外傷で変形した顔や頭蓋骨をバラバラにほぐして形を復元する、最先端の形成外科である。 20世紀の中頃、フランスの天才的形成外科医、テシェによってはじめられ、現在では、微小血管をつなぐマイクロサージャリーとともに、形成外科の二大柱の一つになっている。 そして上石君はその両方の名手である。 いささか長くなるが、僕の『推薦のことば』お読みください。 「上石先生が頭蓋顎顔面外科のテキストを書かかれた。 内容は美容外科、腫瘍、外傷、発育異常、先天異常と5部門からなり、クラニオフェーシャルサージャリーから唇裂口蓋裂まで、およそ頭蓋顎顔面すべてをカバーした大著である。 上石先生は当代随一の形成外科医であり、こと頭蓋顎顔面外科関しては彼の右に出るものはいないと信じている。 彼は歯科と医科のダブルライセンスの持ち主であるが、かつてアメリカで最初の形成外科学会(アソシエーションと呼ばれる)ができたとき、歯科と医科のダブルライセンスの所持が必要条件とされた。それほど形成外科では、歯科の知識と技術が重要視された。 その後情勢が変わり、この伝統の維持は不可能になったが、ダブルライセンス保持者の優位さには変わりはない。 そして彼の学問と診療、手術に対する執念は並々ならぬものがあり、天性の器用さも兼ね備えている。彼との長い付き合いの仲で、僕はどれほど彼から学んだことだろう。 上石先生がレジデントとしてこられて間もなくの頃、ロテーション先の県立子供病院の形成外科部長だった前田華朗先生に僕はこういわれた。 “すごいですよ、今度の上石君は。” 傷跡がキレイに治るんですよ、唇裂でも何でも “ “でもそれは形成外科なら当たり前じゃない?” “いや其のキレイさがぜんぜん違うんですよ” 大学に戻って改めて彼の手術に立ち会うと前田先生の言うとおりであった。 そしてレジデントのうちから唇裂・口蓋裂外来を任され、チーフを終える頃には其の頃台頭し始めていたクラニオフェーシャルサージャリーに取り組み始めていた。当時平行して誕生したマイクロサージャリーも、彼にとっては苦もない操作であった。神奈川県下での最初の切断指の再接着は彼の手で行われた。 “形成外科とは美と血流との相克である”、と先達ミラードは喝破した。 形を整えるためには、ぎりぎりまで血流に切り込まねばならぬ。 やりすぎれば皮膚壊死を起こすが、遠慮しすぎると形がもたつく。 同様のことは顎顔面の骨切り術にもいえる。やりすぎたときの骨壊死の被害は、皮膚壊死の場合より遥かに深刻である。 その意味で形成手術は、絶対に足を踏み外せぬ“綱渡り”といえる。 なにによらず軸となる基本方針は重要である。 だが、形成外科の手術は一例一例がすべて応用問題である。マニュアル人間では勤まらない。 このテキストで彼が症例ごとの説明の展開にこだわるのは、原則をいかに現実に合わせるかのコツを示したいからであろう。 その意味で、本書は形成外科に携わるものの必読の書と行っても過言でない」 もし興味がおありでしたら、ちょっと覗いてください。 イラストは明快で、記述は簡にして要を得ている。 ただ、フォトは生々しいので、一般の方は気つけ薬のご準備を。
by n_shioya
| 2008-09-27 23:17
| 手術
|
Comments(8)
Commented
by
icelandia at 2008-09-27 23:23
ある種の芸術家なのでしょう。語弊を恐れずに言えば。
頭が下がります。
0
Commented
by
n_shioya at 2008-09-27 23:58
icelandiaさん:
われわれ形成外科医は欲求不満の芸術家と自嘲しています。
Commented
by
さぼてんの花
at 2008-09-28 00:28
x
Commented
by
こでまり
at 2008-09-28 06:07
x
以前、神田うのさんが顔面に大けがをしたとき、驚くほど綺麗に治り、医学の進歩に感心しました。特に形成外科は医師としての技量に加え、高い美的センスがいるのでしょうね。心から尊敬します。
Commented
by
silku928 at 2008-09-28 08:09
朝晩ずいぶん秋めいてまいりました。いつも楽しく拝見しています。
上石先生、 卓越した技術と治してあげたいという執念と謙虚さと温かい心、 素晴らしいですね。 「マニュアル人間では勤まらない」 この一言にすべてが表れているように感じました。 好奇心の塊の私、 フォト見たいですけど、嗚呼、失神しそうですね!(^^)!。
Commented
by
n_shioya at 2008-09-28 21:53
さぼてんの花さん:
うまい下手よりも、ともかく表現してみることが大事と、このごろは割り切っています。
Commented
by
n_shioya at 2008-09-28 22:03
こでまり さん:
神田うのさんのことは知りませんでした、なんせ我が家にテレビが入ったのが去年ですので。 でもきれいに治ってよかったですね。 昔の話ですが、モンゴメリー・クリフトという、ちょっとトム・クルーズを思わせる美男の男優が、ひどい事故で顔がめちゃめちゃになり、形成手術でほとんど回復しましたが、やはりなんか表情に締まりがなくなり、やはりこれが手術の限界かな、と残念に思ったことがあります。
Commented
by
n_shioya at 2008-09-28 22:06
silku928さん:
ほんとに急に秋めいてきて、サンマのおいしい時期になりました。 篤姫はまだ、まだ続くのでしょうか? あれがなくなると、日曜の8時から9時まで、配偶者はどう過ごすことになるのか、いささか気がかりです。
|
塩谷信幸
1931年生まれ
東京大学医学部卒業 北里大学名誉教授 北里研究所病院形成外科・美容外科客員部長 AACクリニック銀座 名誉院長 NPO法人アンチエイジングネットワーク理事長 見た目のアンチエイジング研究会代表世話人 東京米軍病院でのインターン修了後、1956年フルブライト留学生としてアメリカに渡り、オルバニー大学で外科を学ぶうちに形成外科に魅了される。数年の修業の後、外科および形成外科の専門医の資格を取得。 1964年に帰国後、東京大学形成外科勤務を経て、1968年より横浜市立大学形成外科講師。1973年より北里大学形成外科教授。 1996年に定年退職後も、国際形成外科学会副理事長、日本美容外科学会理事として、形成外科、美容外科の発展に尽力している。 現在は、北里研究所病院美容医学センター、AACクリニック銀座において診療・研究に従事している。 >>アンチエイジングネットワーク >>NPO法人創傷治癒センター >>医療崩壊 >> 過去のブログはこちら(2005年5月26日~2006年5月26日)
以前の記事
検索
カテゴリ
全体 アンチエイジング スキンケア 医療崩壊 キズのケア QOL 老年病 介護 手術 全身療法 食生活 サプリメント エクササイズ エステティック ヘアケア 美について コーヒーブレーク 医療全般 原発事故 睡眠 美容外科 再生医療 再生医療 未分類 最新のコメント
フォロー中のブログ
ICELANDia アイ... 九十代万歳! (旧 八... ・・・いいんじゃない? 京都発、ヘッドハンターの日記 美容外科医のモノローグ ArtArtArt 芙蓉のひとりごと 真を求めて 皆様とともに... ファン
記事ランキング
ブログジャンル
画像一覧
|
|
ファン申請 |
||